40歳以上の8割が歯周病患者…認知症や脳梗塞の原因にも?

40歳以上の8割が歯周病患者…認知症や脳梗塞の原因にも?

2017年1月16日
40歳以上の日本人の8割がかかっていると言われる歯周病は、糖尿病や動脈硬化から、脳梗塞、認知症などの原因にもつながる病気だ。BS日テレ「深層NEWS」では、歯周病の最新ケアや予防法などについて、日本歯科大学生命歯学部教授の沼部幸博さん、同大附属病院臨床教授の倉治ななえさんに聞いた。(構成 読売新聞専門委員・松井正)

 

――日本では実に40歳以上の8割が歯周病だそうですが、そもそも自覚症状はないのでしょうか?

沼部  最初のサインに気付かないと、知らず知らずのうちに進むのが歯周病。特に、初期では歯茎が痛くなったりしないので、歯医者に行って見つかった時には、かなり進んでいるというのが恐ろしいところです。

――そもそもどんな病気なのでしょうか?

沼部  健康な状態だと歯茎はピンク色で、歯と歯茎の境目が引き締まっています。だいたい0.5~2ミリぐらいの溝の深さですが、歯周病になるとこの境目に汚れがたまり、歯茎が腫れてきます。この汚れを「プラーク」と呼び、硬くなると歯石になります。

このプラークが歯周病を進行させ、図の2番目までを歯肉炎と呼び、それよりひどくなると歯周炎と呼ばれる段階になります。3、4、5と進むに従って、歯周ポケットと呼ばれる歯と歯茎の境目が深くなります。さらに、歯を支える骨やその他の組織が壊れると、最後に6のように抜けてしまいます。これが歯周病の最後です。

――原因は何なのでしょうか?

沼部  プラークは病原菌の塊です。元々は虫歯菌が砂糖を使ってネバネバしたものを作り、その中に虫歯菌と歯周病菌が一緒にすむようになります。それが歯茎に入り込もうとすると、我々の体はそれを防ごうとして戦いが起こり、炎症が起きます。歯茎が腫れたり赤くなったりします。

――歯医者に行くと、よく「ポケットを測ってみましょう」と言われますが、まさにこれを計っているわけですね?

倉治  このポケットの深さを測る検査です。予防のため健康なうちから通う方は、その溝も浅いのですが、重症になってくると深くなり、3や4の段階で来られる方もいます。できるだけ早い段階で来ていただきたいですね。

自覚なしに進む症状

――図の何番ぐらいから、歯周病の自覚が出るのでしょうか?

沼部  実は2の段階から症状はあるのですが、気付かない、もしくは放っておいてしまう。そして3になると歯が少しずつ揺れ始め、「何かおかしいぞ」と思う。4や5になると「これは大変だ」となります。

――結果的に歯を失う怖い病気ですが、どの段階でなら治るのでしょうか?

沼部  できれば2番で気付いていただきたいです。歯周炎になり失われてしまった骨は、完全には治りにくいからです。

――昔のコマーシャルで「リンゴをかじると歯茎から血が出ませんか?」というのがありましたが。

沼部  それが2以降の段階です。

――種の菌だということですが、これは人から人にうつるのでしょうか?

沼部  歯周病菌は元々、口の中にいる菌です。例えばキスをするとうつるという話もありますが、うつっても口の中に定着して悪さをしなければいい。ところが多くの人は、そこで悪さをするすみかを提供してしまうのです。それが先ほどのプラークです。

虫歯菌と歯周病菌の違い

――虫歯菌と歯周病菌は、そもそもどう違うのでしょうか?

倉治  ミュータンス菌と呼ばれる虫歯菌は、赤ちゃんの頃にお母さんからうつります。ところが歯周病菌は産道感染といって、生まれる時にもらってしまう可能性が高い。虫歯菌がうつることの予防は可能ですが、歯周病菌を完全になくすのは難しいと思います。

――虫歯にならない人は歯周病にもならない、というのは間違いなのですね?

沼部  虫歯になりやすい人、なりにくい人。歯周病になりやすい人、なりにくい人がいて、あくまでその人の菌に対する感受性の問題となります。菌同士で張り合っているわけではありません。

様々な病気に関係

――歯周病と関係する病気には、どのようなものがあるのですか?

沼部  歯周病の場所には菌が増え、炎症物質もたまり、それらが全身に散らばります。例えば血管にたどり着くと動脈硬化を引き起こし、心臓なら狭心症や心筋梗塞、脳なら脳梗塞につながります。また炎症物質が全身に散らばると、早産や低体重児出産など、出産の時期や子宮の収縮時期を早めてしまうこともわかっています。糖尿病との関わりも指摘されています。

倉治  かなり昔、心臓外科医の先生が心臓の手術をしたところ、心臓の血管内から歯周病菌が見つかったこともあります。「もうちょっと歯医者さん頑張ってよ」というお話でした。口にいるはずの歯周病菌が心臓で見つかった、血液を通して流れていったということの証明の一端ですね。

沼部  大事なのは、治療をせずに歯周病が持続することが危険だという点です。菌を放っておくと、常に菌が体中を巡るようになり、非常に危険です。

認知症も引き起こす

――認知症が関係あるというのはショッキングです。

倉治  認知症は歯の本数と関係があり、歯周病が直接影響するというわけではありませんが、歯を失いやすい点で重要です。実はほとんどの歯を失ったのに入れ歯をしていない人は、歯が20本以上ある人より、1.9倍も認知症の割合が高いとされているのです。

――歯があるかないかが、認知症と関係があるのですか?

倉治  歯をほとんど失った後、認知症の発症割合がどうなるかを調べた研究があります。差し歯や入れ歯などの義歯を入れない人は、発症割合が高く、逆に義歯を入れた人は、20本以上歯が残っている人とも遜色ありません。「歯がなくなったから私はもうダメだ」と思わず、ピッタリ合った入れ歯を入れておけば、認知症の発症率も抑えられる点には注目してほしいと思います。

もちろん見た目は、人が尊厳を持って生きる上で重要ですが、歯はそれ以外にも機能面で非常に大切な器官なのです。

――歯が抜ける原因の多くが歯周病だということは、気になりますね。

沼部  歯を失う原因の約4割が歯周病、虫歯が3割ぐらいと言われています。歯周病や虫歯で歯を失い、その後入れ歯などを入れずにいると、認知症になる確率も高くなってしまうのです。


実はあなたも…? 5項目でチェック

――自分が歯周病かどうか、どうすればわかるでしょうか?

沼部  簡単にセルフチェックできる5項目があります。歯磨きをすると血が出る、歯茎が赤くはれている、口臭がある、朝起きた時、口の中がねばつく、歯茎がムズがゆい、というものです。あくまで初期段階でのサインだと考えてください。

――口臭も初期の症状なのですね?

沼部  舌の上に汚れがたまってそこに歯周病菌がすみついていると、かなり強い口臭を発します。口の中がねばつくのも、膿(うみ)など炎症の老廃物が唾液に混じることでそんな感じになります。歯茎がムズがゆいのも炎症の兆候で、腫れて痛くなる前の前兆と言えます。

――朝から口の中が爽やかなまま起きる人は少ないとは思いますが、「ねばつく」とはどんな感じなのでしょう?

沼部  ちょっと難しいですが、どこかねっとりして嫌な味がする、またはうがいをすると血が混じっているような感じです。特に膿やプラークが唾液の中に混じると、その感じが強く出ます。また、歯茎が赤く腫れて、血が自然に出るようだと、かなり進行した状態です。

――口臭があるかどうかは、どうセルフチェックすれば良いのでしょうか?

沼部  朝起きた時に臭うのは、生理的口臭といって当たり前なのですが、歯周病があると、それが独特の臭いになる。歯周病の病原菌が出す硫黄臭さ、卵の腐ったような臭いが感じられたら、何かあると考えてください。口臭の原因には、別に内臓や蓄膿(ちくのう)症などいくつかありますが、それとは違うのが歯周病の口臭です。

――自分ではなかなかわかりませんが、家族に嗅いでもらうと良いのでしょうか?

沼部  その方法もありますが、機械でも調べられます。先ほどの硫黄臭さを感知する機械が、歯医者にはあります。

倉治  官能試験といって、患者さんに「ハーッ」と息を吐いてもらい、私が臭いを嗅いで「何々系の臭いですね」というのもある。家族はなかなか言ってくれないですが、私は第三者ですから。また歯医者で調べて、「機械もこういう数値が出ています」と言うと、だいたいわかっていただけます。

――歯医者さんに「歯周病をチェックしたいので、臭いを検査してくれますか?」と言えば良いのでしょうか。嫌がられませんか?

倉治  歯医者の大事な仕事ですから、もちろん嫌がりません(笑)。機械がなくても、先生が官能試験でちゃんと臭いを嗅ぎます。原始的ですが、一番確実ですよ。

予防法と最新ケア

――歯周病はどうしたら予防できるのでしょうか?

倉治  やはりセルフケアが大切で、歯磨きやフロス、歯間ブラシをきっちり使うことです。私が強調したいのは、舌の掃除ですね。歯周病菌は空気が嫌いな嫌気性菌ですので、舌の奥に潜んでいます。舌の奥の白い部分を舌苔(ぜったい)と呼びますが、その部分の掃除をぜひしていただきたい。思い切り舌を突き出して息を止め、奥の方から手前に向かって、専用ブラシでサッサッとかきだします。歯周病菌の数を減らすことになり、口臭の主な原因も取り除けます。味蕾(みらい)細胞を傷つけないようにそっと、舌の汚れだけを取り除くと効果があります。1日に朝1回、10秒で終わります。

――予防法と同時に、なってしまった場合はどうすれば良いでしょうか。新しい治療法はありますか?

沼部  最近は、口の中のプロバイオティクスという方法が出てきています。アンチバイオティクスは、化膿止めの抗生物質などで菌をやっつける方法ですが、プロバイオティクスは口の中に良い菌を送り込むことで、悪い菌を抑える方法です。乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)やビフィズス菌のような菌がよく使われます。

――よく耳にする腸内フローラのようなものですか?

沼部  それと同じ原理で、口の中でも歯周病菌が抑えられるのがわかってきました。オーラル(口内)フローラの改善ですね。歯周病菌がすみかを作ってしまった世界を、善玉菌を送り込んで統治しようという手法です。

効果的な治療法は

――プラークや歯石がこびりついてしまったけれど、歯を失いたくない時の治療法はないのでしょうか?

沼部  まずは歯磨きが、予防でも治療でも大切です。さらに、プラークが固まった歯石を削り取るスケーリングと呼ばれるものがあります。

器具や機械を使って歯石をかき取ります。これでプラークと歯石がなくなり、歯の周りに良い環境が取り戻されます。基本的な治療ですね。

――どの程度の頻度でやれば良いでしょうか?

沼部  完璧な歯磨きはできませんので、歯石は誰でもできる可能性があります。取ってもらうのは半年から1年に1回というペースではないでしょうか。ただ、3か月という期間が、良くなったところがまた悪くなる期間と言われますので、その程度でチェックして、悪いところをたたく考え方もあります。ちゃんと歯磨きができるようになったら、それを継続してほしいですね。「歯医者で歯石を取ってもらえるからいいや」と、歯磨きをおろそかにするのは良くありません。

危険な因子とは?

――どのような人が歯周病にかかりやすいのでしょう。例えばタバコは関係ありますか?

倉治  原因の一つにタバコは当てはまります。タバコに含まれるニコチンが歯茎の毛細血管を収縮させ、血液の循環が悪くなると、歯周病が進行してしまうのです。タバコを吸うと免疫、抵抗力が落ちますので、知らず知らず症状が進んでしまいます。

――気になるのが食習慣や薬の長期服用ですが、これはどういうことが影響するのですか?

倉治  プラークをつけやすい食事や食材があるので、食習慣は重要です。甘いもの、例えばスポーツドリンクなども、パソコンを使いながら少しずつ飲むのは良くなく、一気に飲んでほしいのです。甘い物などプラークを作りやすい食材は、ぜひ時間を決めてまとめて食べてください。

沼部  薬については、例えばてんかんや高血圧の薬、免疫機能を落とすような特殊な薬は、長期間飲むと歯茎に作用します。薬の副作用として歯茎が腫れることがあるのです。

――今はコンビニの数と同じぐらいの歯医者があると言われますが、どんな歯医者さんを選べば良いのでしょうか?

倉治  歯周病にしても虫歯にしても、予防に力を入れてくれる歯医者さんを探すには、電話で「歯磨き指導してもらえますか?」と聞いてください。受付の方が快く「はい、やっています」と言ってくれれば、まず安心です。また、待合室に予防グッズがたくさん並んでいる。例えばフッ素やキシリトール、歯ブラシも歯間ブラシやフロス、歯磨き剤などたくさん並んでいれば、予防に力を入れていますね。治療でも複数の方針を示して、それぞれのメリットやデメリットを説明してくれる歯医者は、すごく良心的だと思います。

――最近はモニターに映して、「今こんな状況ですよ」と説明してくれる歯医者も増えていますね。

倉治  手鏡を渡してくれて、「ご自分で見てください」と言ってくれる歯医者はとてもいいと思います。

沼部  結びに改めて言いたいのは、自分の口の中の変化に早く気付くことが大切だということです。1日1回口を開けて、鏡の前で自分の口の中を確かめ、歯茎の状態などをチェックしてほしいと思います。

倉治  自分で守れる病気だということを、ぜひ理解してほしいですね。虫歯も歯周病も、本来発症しなければ守れるので、そこに気付いていただきたいと思います。

日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座教授

専門は歯周病学。日本歯周病学会理事。著書「新・歯周病をなおそう」など

倉治ななえ

日本歯科大学附属病院臨床教授

クラジ歯科医院院長。東京・大田区学校保健会副会長。監修本「図解 むし歯・歯周病の最新知識と予防法」など

※11月7日放送のBS日テレ「深層NEWS」(毎週月~金曜日の22~23時放送)を再構成しました。


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